生活保護法改正法案の更なる修正ないし廃案を求める声明

生活保護法改正法案の更なる修正ないし廃案を求める声明

兵庫県司法書士会会長 蔭 山 倫 理

「生活保護法の一部を改正する法律案」(以下「改正法案」という。)が衆議院において可決された。しかし、当会は、以下のとおり、改正法案に対して強く反対する。
1)今般の改正法案において、保護申請にあたって原則として申請書を提出すること及び当該申請書には原則として保護の要否等を決定するために必要な厚生労働省が定める書類を添付することが、法律上の義務として明記されている。
 現行の生活保護法において、生活保護の申請は、口頭によっても認められると解されており、このことは裁判例において何度も確認されてきた。申請書の提出は、あくまでも保護申請が行われたかどうかを客観的に明らかにする必要性から求められていたものであり、保護開始の要件とされていたのではない。また、保護の要否等を決定するために必要な書類は、保護の申請後、開始決定までの間に提出することが求められているのであって、保護申請時に提出しなければならないものではない。従って、福祉事務所の窓口において、市民が保護の申請意思を表明したにもかかわらず、申請書が交付されず、申請書を提出できなかったために保護を申請したものと認められなかったり、必ずしも申請時において提出する必要が無いにもかかわらず、自宅の賃貸借契約書や預金通帳等、保護の要否等を決定するために必要な書類を提出することが申請の要件であるかのような誤信を与え、結果として申請ができなくなるという事態は、違法ないし違法性の高い取扱いによるものであり、いわゆる「水際作戦」として批判されてきた。
 この改正点について、厚生労働省からはこれまでの運用を変更するものではないと説明され、また、改正法案の当初の条文から修正が行われているが、改正法案の審議にあたっては、上記の「水際作戦」と呼ばれるような運用は、申請権の侵害にあたる不適切な取り扱いであることを市民に対して明確に示し、決して、従来の「水際作戦」が適法であると解釈される余地が生じないよう、更に慎重に検討されることを求める。
2)また、今般の改正法案においては、生活保護の開始にあたって、扶養義務者に対して厚生労働省令で定める事項を通知できるとされ、また、要保護者の扶養義務者のみならず、過去に生活保護を受けていた者の扶養義務者であった者について、その者に対して報告を求めることができる他、官公署、金融機関、更には勤務先の雇主に対しても資料の閲覧や提供を求めることができるとされている。
しかしながら、ここまで扶養義務を強調し、扶養義務者に対する調査権限を強化すると、保護を受けようとする者も、親族に知られたくない、または迷惑をかけたくないと思えば、申請を躊躇するであろうし、通知を受けたり照会をかけられた親族は、相応の余裕がないにもかかわらず保護を申請しようとする者を無理して扶養しようとするか申請を断念させようとすることも予想されるのであり、保護申請を抑制することのみを目的として親族への通知や調査を行うことを可能としてしまう恐れがある。
現行の生活保護法において、扶養義務者等による扶養は、保護に優先するものではあるが、保護の要件ではない。従って、福祉事務所の窓口において、生活保護の申請に来た市民に対して、「扶養義務者と相談してからでないと申請を受け付けない」などと対応することや、扶養が保護の要件であるかのような説明を行い、その結果、保護の申請を諦めさせるようなことは、申請権の侵害にあたる恐れがある、とするのが厚生労働省の公式見解である。
 しかしながら、上記改正は、事実上、扶養を保護の要件とすることと事実上同じ効果を持ち、保護を申請しようとする者を委縮させ、申請権を侵害する恐れがある。
3)我が国の生活保護制度運用に関する大きな問題点の一つは、いわゆる補足率の低さであり、本来生活保護を受けられる資産・所得水準であるにもかかわらず、保護を受けるに至っていない膨大な数の市民がいると考えられる。これを克服するためには生活保護を申請する権利を最大限尊重することが必要であるが、上記1)2)の改正点はこれと逆に、生活保護の申請を抑制し、その結果として、更なる格差と貧困の増大をもたらす恐れがある。
今般の改正法案は、その他にも、医療扶助受給者に対する後発医薬品の事実上の義務付け、被保護者の生活上の責務の追加、不正受給徴収金の保護金品からの徴収等、多くの議論が必要と思われる問題のある内容を含んでいる。
当会は、今般の改正法案につき、慎重に審議の上、更なる修正又は廃案を求める。

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